ボクが鉛筆画も描き始めてから、そろそろ2年くらいが経とうとしています。少し前に書いた記事の中では「井上リエさんのイラスト(アクリルガッシュ)にあこがれて絵を描き始めた」と書いているのですから、アクリル絵の具のほかにも透明水彩やら、さらには鉛筆画まであれこれ手を出して描き始めるなんて、少し絵を描く動機がフラフラと矛盾していませんか?という話ですよね。
実は鉛筆画についても大きな衝撃を与えてくれた作家さんがいるのです。現在も現役で活動されている鉛筆画家の「土田圭介さん」です。素人のボクが述べるのもおかしな話なのですが、細密画といってよい土田さんの描く鉛筆画は秀逸です。柔らかなトーンと人間業とは思えないグラデーション、そして独特の世界観。本来ならここでそのいくつかの絵を載せて紹介したいくらいなのですが著作権の問題も有りますので、それができないことはどうかご理解ください。(ウェブで検索すれば画像また彼の経歴などはすぐにわかると思います。さぁみなさん、検索、検索!)
大魚を運ぶ男たち
ヴィフアール紙 中目
B5サイズ
2022.1.24
かえるの暮らし
ヴィフアール紙 中目
B5サイズ
2022. 2.9
何事にも感化されやすいボクは、初めて土田さんの作品を拝見したときに自分も鉛筆画を描いてみたくなりどうしようもなくなりました。初めはマルマン製の水彩紙しかも中目の紙にH~4Bの鉛筆を使い上記の「大魚を運ぶ男たち」というタイトルで描いてみました。古代の人たちの労働に対する感覚を推し量って描いた絵なのです。が、少し美術や芸術のことをご存じの方に見てもらったところ、「おもしろいですね。これはたい焼き?」と言われてしまいました。これはいけない、とめげずに二枚目はおおむねH~4Bあたりの鉛筆で「かえるの暮らし」という絵を描いてみました。この2枚目の鉛筆画は自分でも随分と納得してしまい、なかなか出来もいいのではないかという自画自賛の沼におぼれそうになりました。そして三枚目に描いたのが下の「あなたはだあれ」です。
あなたはだあれ?
Campus スケッチブック
A4サイズ
2022 6.10
正直なところ、このころのボクは一枚目、二枚目、とあまり紙の質などにはこだわらず、むしろ鉛筆の濃さばかり気にしながら描いたと記憶しています。けれどもこの3枚目の「あなたはだあれ」を描き進めている途中、ひどく紙の柔らかさ、また硬さが気になりました。描いている途中もちょっと筆圧を上げれば鉛筆の先が紙に埋もれるような感覚になる、紙が筆圧で破けそうになる。といって鉛筆はあまり柔らかくないほうが良い。鉛筆画を続けようと決心して意気揚々と購入したコクヨのCampusスケッチブックの紙は実のところあまりに厚みが薄すぎました。またこの3枚目の鉛筆画を描いた時には鉛筆の硬さもむしろ3H~5Hくらいの十分な硬さを持っている鉛筆のほうが自分のイメージした絵を描きやすいことにも気づきだしていました。
結果、この「あなたはだあれ」を描き終えたときには今後鉛筆画を描くなら「少なくとも7もしくは8Hくらいから3Hか2Hあたりまでの硬さの鉛筆をそろえ、筆圧にも耐えられるフラットな面の厚みのある画用紙に描く」ことが最低条件であると感じたのです。ですからその後のボクは画用紙ならヴィフアール水彩紙の細目もしくはウィンザー&ニュートンのコットマン水彩紙細目(これは鉛筆画に最適!)、また鉛筆は三菱鉛筆のUNIもしくはHi‐UNIの3Hあたりを中心に使いながら描くようにしています。
その後は何枚か鉛筆画を描き進め、現在は「大きな魚」から数えて12枚の鉛筆画を描いてきました。そしてその中で、僕はもう一つ重要な大きなことに気づいたのです。それは「鉛筆画は納得のいく描き方をすれば膨大な時間がかかる」ことです。現在(2023.12.19時点)も実は書き始めてから7か月ほどが経っている未完成の鉛筆画に取り組んでいるところなのです。この製作期間7か月を過ぎた鉛筆画はサイズもF6と大きいということもありますが、ようやく、ようやく完成が近づいてきました。それにしてもそれらを考えると前述の土田さんの鉛筆画作品はすさまじく手先の器用さと忍耐力が要求される作品なのだ、と声も出ないくらいに実感するばかりです。
ああ、話が長くなってしまいましたね。最後にもう一つ、鉛筆画を描きながら感じること。それはコツコツと線一本一本を引いている際、素の自分と向き合うことができる、ということです。描き始めから描き終わりまで、水彩画やアクリルガッシュを画材とする絵などに比べるとひどく時間がかかります。が時間がかかるがゆえにその絵を描く目的や出来栄えへのこだわりなど、ずいぶんいろんなことを考えながら線を引くことに「没頭する楽しみ」を感じている自分をボクは見つけることができました。
色合いや華やかさを求めれば透明水彩やアクリルガッシュは本当に魅力的な画材です。これからもボクはこれらの画材で絵を描き続けることは間違いないのですが、上記の理由から、「鉛筆画」という選択肢もボクの中では魅力的な輝きを放っているのです。もしあなたが「鉛筆画」に興味を持ったなら、我流でもいいからまずは一枚、スケッチブックと向き合う時間をお勧めしますよ。
2023年12月19日 こけのきもち